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東京地方裁判所 昭和33年(ワ)9119号 判決 1959年10月30日

原告 井出進

右代理人 高木右門

外二名

被告 田中正雄

右代理人 星野忠治

主文

被告は原告に対し別紙物件目録第二記載の建物を収去して同目録第一記載の土地を明け渡せ。

被告は原告に対し昭和三一年六月一八日より右明け渡し済に至るまで一箇月金二三円の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

一、成立に争のない甲第一号証≪中略≫によると、原告が訴外日本松脂株式会社に対する貸付債務二五万円の売渡担保として、昭和三一年三月小泉から、同人所有の本件土地の所有権を取得し、同年六月一八日その所有権取得登記手続を経たことが認められ、右認定に反する証人小泉保平の証言は信用することができない。(右登記手続の点については当事者間に争がない。)

二、被告が本件地上に本件建物を所有し、その敷地として本件土地を占有していることは当事者間に争がない。

証人小泉保平の証言≪中略≫によると、被告は、約二〇年前小泉から、本件地上にあつた小泉所有の家屋を賃借していたが、右家屋が戦災により焼失したので、昭和二一年一月小泉から、本件土地を、賃料一箇月(坪当り五〇銭)合計二一三円毎月五日払の約で、期間の定めなく、賃借し、その地上に本件建物を建築所有するにいたつたことが認められるのであつて、被告が小泉に対し本件土地の賃借権を有していたことが明らかである。

しかし、原告が小泉から本件土地の所有権を取得した当時、被告が本件土地の右賃借権又は本件地上にある本件建物について登記手続を経ていたことを認めるべきなんらの証拠もないから、被告は、本件土地の右賃借権をもつて、原告に対抗することができないものといわなければならない。

三、そこで、被告の権利濫用の抗弁について判断する。たとい権利濫用の理由として被告が主張するような事実が認められるとしても、原告及び被告各本人の尋問の結果によると、原告は、本件土地の所有権を取得した後、弁護士高木右門を代理人として、被告に対し、被告が本件土地を明渡すならば、明渡料として四〇万円を支払うし、また被告が本件土地を買取る希望であるならば、代金六〇万円で売渡してもよい旨を申入れて、再三折衝したのに、被告がそのいずれにも応じようとしなかつたので、やむなく被告に対し本訴を提起して、本件土地建物の収去明渡等を求めるにいたつたことが認められ、しかも原告の右申入れは、本件土地明渡の成否に関する原被告双方の利害関係を解決する方策として、妥当なものと考えられるから、本件土地建物の収去明渡を求める原告の請求を、原告の本件土地所有権の濫用であるとみることはできない。

四、してみると、被告は、原告に対し、本件建物を収去して本件土地を明渡す義務があるとともに、被告が本件土地を占有し、原告の所有権に基く本件土地の使用収益を妨げていることによつて、原告に被らせている損害を賠償すべき義務がある。その損害は、本件土地の相当賃料と同額であると認めるべきであるところ、前掲乙第一号証によると、昭和三一年六月一八日(原告が本件土地の所有権取得登記手続を経た日)以降の本件土地の相当賃料は、一箇月(坪当り一三円)九二三円であると推認することができないこともない。

よつて、原告が被告に対し、本件土地建物の収去明渡を求めかつ昭和三一年六月一八日以降右明渡済にいたるまで一箇月九二三円の割合による損害金の支払を求める本訴請求を正当として認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。なおこの判決に仮執行の宣言を附することは相当でないと認められるので、これを附さない。

(裁判官 吉田豊)

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